職員室には食料こそなかったものの、大きな手がかりを得ることができた。
自分たち以外にも生きている人がいる。
それだけで希望が満ちた。それも先生となれば、頼もしいことだろう。
しかし、それと同時に不安も満ちた。
机にこびりついた血、誰かが争ったような形跡、緊急事態の最中よほどのことがないとこうはならない。
そして、その不安は校長室に入った瞬間、膨張した。
校長室は職員室に直接つながっており、廊下から見て左奥にその扉があった。職員室にそれ以外めぼしいものがなかったので、ついでに覗くことになったのだ。
……!
オサムはドアを引いた瞬間、驚きでかたまった。イブキがその背中にぶつかる。
「痛……! どうしたの?」
彼の顔は青ざめている。
「刀が、ない」
「刀?」
「飾られた刀が一本なくなっている。もとからかもしれないけど……」
イブキは彼の背中から校長室を覗き込んだ。ちょうど向かいに刀が二本横に掛けられるような台があった。確かに上の一本がなくなっている。
「模造刀だね」
「うん。でも、これを振り回せば十分大ケガになるよ」
「マサヤン、大丈夫かなあ」
するりとオサムの横をすり抜け、模造刀の近くに寄る。ほこりの有無を確認し、こちらに向かってうなずいた。やはり、最近持っていかれたようだ。
ここまでをまとめると、職員室には少なくとも二人いたことは確実だった。一人は井上先生だろう。そしてもう一人、彼と争った人物 。模造刀を持って、井上先生を襲った人物がいる。
そいつがこの世界の黒幕? いや、そう断言するには時期尚早だ。
「うわ! 意外と重いね!」
顔を上げると、イブキが残った一本を持ち上げていた。持っていかれたのは大きい方で、残ったのは小さい方だったが、それでも包丁と比べれば断然重いだろう。
彼女がこちらをみる。
「どうする? 持ってく?」
「……そうだね。僕が持つよ」
オサムは刀を手に持った。ずしりと腕に重さがのしかかる。
まだ校内にそいつが潜んでいるかもしれない。もし、襲われでもしたら……。こいつでなんとかするしかない。大きな太刀に対抗できるかわからないが、ないよりかはましだ。
一通り、校長室を見て回る。やはりめぼしいものは特になかった。
「次は校舎を見て回ろう。さっきは二手に分かれると言ったけど、武器を持っているやつがいるなら話は別だ。一緒に行こう」
「おっけー」
よし、と言って校長室から出ようと足を運ぼうとした。
「あ、ちょっと待って」
「何かあったのか?」
重大な手がかりを見落としていては困る。
「いやあ」
そう言って彼女は、奥のシックでほこりまみれになった校長椅子に腰掛けた。
そして、机に肘をついて目の前で手を組む。しばらくの沈黙。風が背後から通り抜ける。
イブキはまゆをひそめて渋声で言った。
「これ、ずっとやりたかったんだよね……」
……男友達ならどついているところだ。