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【フリー小説】さつき波の都 #8 廃校探索ノ章4

さつき波の都

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遺跡となった校舎を一歩ずつ進む。

この時間帯はいつも登校する生徒たちで賑やかなものだが、その面影はない。

虚しさに胸が痛むのを抑えつつ、オサムたちは生存者を求め、歩を進めた。

空っぽの職員室、校長室、事務室、保健室を見て回り、二階の階段を登る。三年生の八つの教室が、グラウンドを向かいにして一面に並んでいる。

左奥から順に見ていく。人影はなく、やけに心地よい風がその虚しさを引き立てた。

右最奥の最後の教室、一組を見る。

見慣れた光景だった。なにしろ、前の世界《エデン》で僕が最後にいた教室なのだから。

皮肉にも一番被害が少ないのはこの教室だった。

後ろから見て左手前が、いつもの席だった。しかし周りには近づきがたい、まがまがしいオーラが漂っている。

窓の外を見た。あの日と同じように、上からイブキが降ってくるような気がして、すぐに目をそらす。

「ここも、誰もいない」

「え? ちゃんと中まで見なくていいの?」

「……僕は、外を見張っておくよ」

「……ふーん」

イブキが教室に入り、後ろから机をひとつひとつ見ていく。壁際はもろく危ないため、避けるようにしていた。

一通り見て戻ってくると彼女は首を振った。手がかりなし、か。

オサムは「行こう」とつぶやくと、三階へ向かった。

三階。二年生のフロアも何もなさそうだった。六組の教室を見終え、前から出ようとする。

振り返ると教室の真ん中で、イブキがうつむいて立っていた。

確かイブキは二年六組。ということは、彼女にとってここが前の世界《エデン》の教室だ。

イブキは聞こえるか聞こえないかの声で、つぶやいた。

「みんな、本当にいなくなっちゃったのかな……」

いつになく、辛そうに思えた。

「コジコジも、ムラタも、ジュンペーも……」

震える声を絞り出す。

「いっちゃんも、カホタンも、みんな」

「……」

オサムも床を見る。最後の二人は戦友だった。

僕、イブキ、ハジメ、小野寺さん。

この四人で文化祭実行委員会を回していた時期が懐かしく感じる。

オサムの口が開く。しかしその口は、何も発すことなく閉じられた。

みんなきっと、生きてるよ。

マンガのヒーローだったらもっとうまい言葉が出るだろう。

オサムはただ黙って、うなだれた彼女を見るしかできなかった。

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ABOUT ME
ぱっちー
自己啓発書大好きSIer(週2、3冊は読みます)。 毎日を良くするための研究を続けて早3年。 自分の自己啓発書を出版するのが夢。 感謝と恩返しの気持ちをいつも胸に。