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【フリー小説】白雪姫と七人のオタク #1 はじまりはじまり編

白雪姫と七人のオタク

はじまりはじまり

むかしむかし、ある高校の女子トイレ。ひとりの娘がモップを持って、寂しく床を磨いておりました。

彼女の名は白井しらいゆき。雪のように肌が白く、血のように美しいほほを持ち、黒炭のように黒い髪をしていました。

「さてと、掃除は終わったかしら?」

トイレの入り口から声がしました。そのほうを見ると、意地悪く笑った娘が立っていました。彼女も雪と同様に美しく、周りをとりこにせんばかりの美貌びぼうを持っていましたが、雪には一歩及びませんでした。

雪は答えました。

「いえ、まだ」

「おっそいわね。もう私、帰るから。明日ちょっとでも汚れていたら、どうなるか分かっているわよね?」

彼女はそう言って口元をゆがませると、カバンを持って去ってしまいました。雪は自分の頬を優しくさすりました。

雪はここ最近、彼女、間塩まじおマホからイジメを受けているのでした。マホは自ら教師から雑務を引き受けると、それをすべて雪に押し付けていました。

そしてそれをカンペキにこなさなかったとき、彼女は女性に関係なく雪の顔をはたくのでした。

雪はみじめでした。何もしていないのにイジメを受けている自分に。いえ、何もしていないからでしょうか。わかりません。イジメの原因はまるで検討もつきませんでした。

そして解決策が見つかるはずもなく、汚れたモップでひたすら床をこすりつけるのでした。

ある日のことでした。放課後、雪はいつものように掃除道具の個室の前に立っていました。

そして、個室を開けようと手を伸ばしましたとき、ある異変に気づきました。

水がしたたる音が聞こえたのです。

床を見てみると一滴の水たまりがありました。そしてそれは、二滴となり、三滴となり。そこで雪は自分が泣いていることに気づきました。

今までの辛い気持ちが、あふれてくるようでした。

「もう、いや」

雪はトイレの入り口に向かい、置いてあったカバンを持ちました。

そのとき彼女が目の前に現れました。マホです。こちらを鬼の形相で見下ろしていました。

「あんた、何してんの?」

その瞬間、雪は弾かれたように逃げだしました。カバンを持って一直線に階段まで駆けていきます。

「いたっ!」

雪の肩にぶつかりマホはよろめきました。

マホがすれ違いざまに見た雪の目は、固く閉ざされていました。そしてそれは彼女に対する反抗のしるし。長きにわたる戦いの合図となったのでした。

七人のオタク

「ちょ、待ちなさい!」

マホは後ろから追いかけてきました。雪は一心不乱に階段を駆け降り、靴も履かず外に飛び出しました。

校庭の脇道に入り、とがった石を飛び越え、イバラの中を突き抜け、校舎の奥へ奥へと進みました。

そして足のかぎりを尽くした頃、辿り着いたのはひとつの部室小屋でした。

小屋はひっそりと佇んでいました。雪は入学して間もないということもあって、校内のことはよくわかりませんでしたが、まるで秘密の花園に来たようでした。

マホはもはや付いてきていませんでした。雪は疲れを休めようと、部室のドアをノックしました。しかし、返事はありません。

「留守なのでしょうか?」

ドアノブを回してみました。ガチャリ。鍵はかかっていません。

そっと扉を開けて様子を見てみますと、中には誰もいませんでした。雪はいつ背後からマホに襲われるか分からない不安から、部室の中に入ってみることにしました。

何の部室かわかりませんでしたが、あたりは漫画で散らかっていて、足の踏み場もありません。壁際には美少女のポスターや戦隊モノのフィギュアが飾られていました。

部屋の真ん中には、小さな丸テーブルがありました。テーブルには食べかけのお菓子とジュースが置いてあります。数えてみると、それぞれ七種類ありました。

雪はたいへんお腹が空いて、のどが乾いていましたから、お菓子とジュースをそれぞれ少しずつ拝借しました。ひとつにしなかったのは、なんだか悪い気がしたからです。

そして隣にもう一部屋あるのに気づきました。雪はそこをのぞいてみました。

隣の部屋はここの部屋と違って、少し狭いものでした。そしてそこには、ひとつの布団が敷いてありました。

布団はふかふかで、この部屋と違ってなぜか清潔感がありました。壁際の本棚にきっちりと漫画が整理されています。雪は疲れていましたので、横になるだけと思い、布団に寝転びました。

日が暮れて、あたりが真っ暗になったとき、部室の外から談笑が聞こえてきたかと思うと、そのドアが開きました。

そして、部屋の明かりがつくと、一人の男が気づきました。

「……なにか、おかしくないか? 出かけたときと様子が違う気がする」

「もしかして空き巣だお?」

「だから鍵かけたか、ちゃんと確認しろ言うたやんけ!」

「何か盗まれたら、そいつただじゃおかねえな」

「ま、大丈夫っしょ。とりま入ろーよ」

「美少女居候フラグ、キボンヌでござる!」

「……Zzz」

七人の男たちは、ゆっくりと部屋に入って、なかを調べてみました。そして、隣の部屋を見てみると、何者かが寝息を立てていることに気づきました。

一人目の男は近づいてその顔を見ると、残りの六人を手招きしました。

「おい、客人だ」

「おお。ロリ展開キターーーーでござる!」

「うるせえ。起こすんじゃねえ」

「……かわいいというより、美しいよねー」

「オレの……布団……」

その時、雪はふと目が覚めました。男たちに気づくと、すぐに身を起こして言いました。

「すみません。私……」

「いや、俺たちのことは大丈夫だ。君の名前は?」

「白井雪と言います」

「白井はん。どうしてワイらの部室に入ってきたんや?」

「それは……」

雪は自分がイジメを受けていて、そこから逃げ出したことを七人に説明しました。

「なんと……ぼりぼり……それは……ぼりぼり……一大事だお」

「おい、ダイキ。ポテチほおばりながらしゃべるなといつも言ってるだろ」

「ごめんごめん。謝るお」

「どうするー? ま、ボクたちには関係ないことだし。かくまう義務もないからねー」

「おまえ、それマジで言ってんのかよ?」

「美少女をかくまう? はあはあ。たまんない展開でござるな……」

「おまえはおまえで、アブねーんだよ!」

「おいおい、みんな落ち着け。とにかく」

短髪メガネの男はこちらを見て言いました。

「白井さんには、しばらくここにいてもらおう。そのほうが安全だろ?」

「ここは良くも悪くも、校舎から遠いからなあ。ほんまケッタイなことやで」

「そのかわり、ひとつお願いを聞いてもらってもいいか?」

雪はこくりと頷きました。

「俺たちが出かけている間でいいから、あそこを掃除してくれ」

男は後ろのぐちゃぐちゃのリビングを指さしました。

「俺が片付けても、他が一瞬で汚すんだ。頼む」

短髪メガネの男は手を合わせてお願いをしました。

雪はもう一度、こくりと頷きました。

「おお!」

すると短髪メガネの男は微笑んで、その手を差し出しました。雪は丁寧に握り返します。

「じゃあ、しばらくよろしくな。白雪さん」

「展開キタコレでござるな!」

「おい! オレらがお片付けできないみたいな言い草するんじゃねえよ!」

「実際そうじゃないか。吠えるなよー、イライラ神」

「おいてめえ、もう一度その名前で呼んだらぶっとばすぞ!」

「早く……布団からどいて……」

そうして、雪は愉快な七人にしばらくお世話になるのでした。

続く

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