感動したい

【フリー小説】おんぼろサイボーグ

おんぼろサイボーグ

 Nは天才で名の知れた外科医であった。彼のもとを訪ねる患者は、たとえ重症であってもことごとく完治した。彼は生きる希望を与えるその仕事に対して、相当な誇りを持っていた。
 ある日のことだった。彼のもとに一人の男が訪ねてきた。しかし、彼はとても具合が悪そうには見えない。
 男はNに向かって嬉々として言った。
「先生のうわさについては、かねがねより耳にしております。ここでひとつ、お願いを聞いていただけますか?」
「ええ。どうぞ」
 Nは少し不審に思いつつも、続く言葉を待った。
「先生。わたしの腕を、機械に変えていただけますか?」
「なるほど。腕が悪いのですね」
「いいえ。私の腕はいたって健康です。」
「どういうことでしょうか? 健康な腕を機械に変えてくれだなんて」
「私は機械人間、サイボーグに昔から心底憧れてきました。自分の腕が力強く、美しいマシンになる。そう考えるだけでも気分が高揚するのです」
 その言葉に、Nは頭に血が昇るのを感じた。
「……それは。それは本気でおっしゃっているのですか? それと同じことを生まれつき体の不自由な方に向かって言えますか? それは倫理的にどうか、あなたは考えたことがありますか?」
「やはり、そうですか……」
 男は残念そうにうつむいた。
「天才外科医であれども、使う言葉はみなと同じ。ガッカリしました。傷ついた体を治すのが外科医ならば、私は私を傷つけるまでです」
 Nはその言葉に一抹の恐怖を感じた。この男ならいずれ本当にやりかねない。直感的にそう思った。
 男は立ち上がり、一礼をして去ろうとした。
「わかりました」
 Nは言った。男が振り返る。
「わかりました。ただしこれは外科手術でなく、あくまで整形手術です。それを念頭におくのなら」
 男は感謝の言葉を紡いだ。
 それから最終的に、Nはその手術を引き受けた。手術は無事成功。その男は金属製の両腕に喜び、去っていった。
 しかし数週間後、あの男がまた訪ねてきた。今度は脚を変えてほしいとのことだ。Nはもう二度と同じような手術はしたくなかった。しかし説得するも、彼は聞く耳を持たなかった。気圧されて仕方なく、Nは彼の脚も機械に変えてしまった。
 その後もひっきりなしに男はNのもとに訪れ、自身の体を機械に変えた。その手術は皮肉にも失敗することはなく、内臓や胴体、首、顔、ついに脳までも新品な機械に変えてしまった。彼の生身はもはや存在していないにも関わらず、彼はピカピカなサイボーグであることに喜んでいた。
 完全なロボットとなってしまった彼を見て、Nは相当悔やんでいた。健康な体にメスを入れることは、外科医でなく外道がすること。そこに誇りを持つことはできない。
 Nは手術室の冷蔵庫をおもむろに開いた。そこには、今までの手術で摘出した体のパーツが保存されている。彼はそれをすべて取り出し手術台に置いた。
 そして大きな深呼吸をすると、手術針でそのパーツを一つずつ、丁寧につなぎはじめた。内臓という内臓、血管という血管、すべてを精密につなぎ合わせた。ひとつのミスも犯してはいけない。
 そして数日にわたる手術の末、手術台にはあの男が横たわっていた。縫いあと以外はまったく同じだ。
 Nは目の前のボタンを押した。男は魚のように大きく跳ねたかと思うと、浅い呼吸を始めた。
 Nは微笑んだ。ようやく誇りは取り戻せた。後は彼が戻ってくるのを待つだけだ。彼はため息をつき、近くの椅子にこしかけた。
 そしてしばらくすると、男は目を覚ました。その身を起こし、体をゆっくりと見回す。
 Nは男のもとへ行き、あいさつを交わした。しかし、何か様子がおかしい。
 男はNに向かって嬉々として言った。
「先生。わたしの腕を、機械に変えていただけますか?」

ABOUT ME
ぱっちー
ども、チャチャタメの管理人でございます。