感動したい

【フリー小説】空き地ゲーム

空き地ゲーム

ジャケット姿の男が積まれた土管の上で足を組んで座っている。街灯に照らされた顔に浮かぶのは、不気味な笑み。

今宵は待ちに待ったショータイムだ。

あいつは一体、どれほど楽しませてくれるだろうか。

しばらくすると足音が徐々に近づき、奥から男が姿を表した。

少し頼りない太った男だった。彼はこちらを静かに見据えている。

静かな空き地は二人だけの空間になった。

ジャケットの男は言った。

「やあ、久しぶり。本当に一人で来るとは思わなかった」

太った男はうつむいて黙っている。ジャケット男は土管からひらりと降りた。

「ここに来たからには、ゲームを受けてもらう。そのルールについてだけど、」

「なあ、坂本」

太った男が口を開いた。

「オレはゲームなんかしたくない。オレはただ……」

「おい斎藤。おまえにゲームの拒否権があると思ってんのか」

今までと違って、その口調は冷ややかだった。斎藤は開いた口を閉じ、再び黙ってしまった。

「ルールは簡単。おまえがいつも持っているライターの火を三回連続でつけることができれば、おまえの勝ち。一度でも失敗すれば、おまえの負け。おまえが勝ったら、約束通り一千万円をくれてやる」

そこで坂本はニヤニヤと笑った。

「そして、お前が負けたら左手の小指をもらう」

斎藤は自分の左手の小指を見た。その顔は悲しさにあふれていた。

そうだ、その調子だ。もっともっと怖がれ。もっと絶望した顔を僕に見せてくれ。

そして坂本が指を鳴らすと、周りから黒ずくめの男たちが現れ、斎藤を取り押さえた。

「お、おい」

空き地の奥からボロボロの机を持ってくると、斎藤の目の前に置いた。

黒ずくめたちは斎藤の左手を机の上に無理やり置くと、カギ状の釘を打ち込みその小指を固定した。

「坂本と話をさせてくれ、頼む!」

「あーあ。がっかりだなあ。こんなに腰抜けだったなんて」

「違うんだ! 話を聞いてくれ」

「おまえとは口もききたくない。ほら、ゲームはもう始まっているんだ。十秒以内に着火しないと負け。ほら、十…九…」

斎藤は急いで右のポケットからライターを取り出した。そして深呼吸を一つ。

その横で黒ずくめが、今にも小指を切り落とさんとばかりにナタを構えている。

斎藤は勢いよくライターの着火部分を回す。火花が軽快に飛び、ライターに火がついた。

「素晴らしい。実に運がいいね」

坂本は拍手をした。最初の一回目くらい、どうってことはない。まだとっておきの秘策があるのだから。

斎藤はまだ何か話したそうだ。しかし、坂本は続けた。

「それにしても、おまえは借金を抱えているそうじゃないか。それも数百万のな」

「……!? どうしてそれを?」

「どうしてだろうねえ。身近な人にしか話していないのにねえ。例えば、奥さんとか」

斎藤の顔が真っ青になった。坂本のニヤニヤが止まらない。

「ま、まさか……」

「そう。おまえは偶然彼女に出会って、恋愛して、結婚したと思っているが、彼女はスパイ、僕の操り人形なんだよ。だから、おまえの情報は僕に筒抜け」

「バカな……!」

斎藤は絶句した。目が泳ぎ、もはや焦点が定まっていない。

くくく。最っ高だ!

その様子を見て坂本は異常な興奮を覚えた。あのクズが現実を突きつけられて、絶望してやがる。間違いなく今が人生で最高の瞬間だ。

湧き出る笑いを抑え、僕は最後の言葉を叩きつける。

「さあ、おしゃべりがすぎたようだな。今から十秒以内につけないと、おまえの負けだ!」

斎藤の震えが止まらなかった。その様子だと十秒以内にライターの火をつけるなど不可能だ。

勝った。今からおまえは、僕から小指を取られたまま一生を過ごすのだ。そう思った時、

パアン!

音が鳴り響いた。僕は驚いた。音ではなく、斎藤の行動に。斎藤は自分の頬を思い切りはたいていた。

そして何事もなかったかのように、彼はライターに指をかけると、冷静にヤスリを回した。

シュッ

炎が輝いた。

「なんだと……!?」

あの尋常じゃない精神を一瞬で治しやがった。

「なあ」

斎藤が口を開く。坂本は思わず黙ってしまった。

「オレはゲームをしに来たんじゃない。おまえに謝りに来たんだ」

「……謝りに、だと?」

斎藤は机に両手をつき、その頭を下げた。

「本当にすまない、坂本」

「……」

「あの頃を恨んでいるんだろう? オレは反省したんだ。もう二度とイジメはしない。絶対だ」

「……」

「だから……」

その瞬間、坂本の拳が斎藤の頬に突き刺さった。斎藤は机ごと吹っ飛んだ。

「……正義者ぶってんじゃねえよ」

坂本は倒れた斎藤に近づくと、その胸ぐらをつかんだ。

「正義者ぶってんじゃねええ! 僕の人生をめちゃくちゃにしておいて、どうして今更そんなことぬかせるんだ! おかしいだろ!」

斎藤はうつむき、黙っている。

「なあ! なんで黙ってんだよ! 返せよ! 中学時代を! 復讐計画を! 僕の……人生を……! 頼むから、返してくれよ……」

坂本の手が緩まる。斎藤はその場に崩れ落ちた。

「……すまない」

「なあ……そんなに、許して欲しいのなら」

坂本はつぶやき、腰につけていた包丁を取り出した。

「死をもって償えよおお!」

坂本が包丁を振りかぶる。斎藤は目を固く閉じた。その時、

「おい、おまえたち! 何をしている!」

警官の懐中電灯が二人に照らす。

坂本は思わず包丁を捨てて走ると、空き地の土管を足場に塀を飛び越えた。

「待て!」

警官は裏手に回り込むように、どこかへ走っていった。あの黒ずくめの男たちはいつの間にか消えているようだ。

斎藤は黙った。そして落ちていた包丁を手に取り、振りかぶった。狙いは左手の小指。しかし、包丁はいつまでたっても振り下ろされない。

「……くそっ!」

斎藤は包丁を空き地に投げ捨てた。包丁の乾いた金属音が空き地に虚しく響いていた。

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