「はあ」
卓はカレーをすくう手を止め、ため息をついた。
「最近、卓元気ないよな? どうしたんだ?」
透はがつがつといつものようにカツ丼をほおばりながら、言った。
「なんか最近嫌なことばっかりでさ。仕事も身に入らないっつーか」
「例えば?」
卓は中川と食事に行って飲まされたこと。
そして、彼女と一緒にいるところを撮られ、それを自宅に送り付けられたことを話した。
横領の冤罪がかけられたことについて話すのは、気が引けた。
透にそこまで心配をかけたくなかったからだ。
「……それは、災難だな」
「だろ?」
「そういえば」
「ん?」
「マンガ返しに行ったとき、その秘書がおまえの郵便受けに黒いパンフレットを入れていったんだよなあ」
黒いパンフレット……。
カジノの招待状のことだ。
「あれは何だったんだ?」
「怪しい案内だったよ。すぐに捨てた」
「そうか。そのほうがいい」
「おう。オレはもうあいつと関わりたくない」
「いやあ、女ってこえーもんだな」
「おいおい、他人事じゃねえぞ!」
笑いが込み上げた。
なんだか、久しく笑っていなかったような気がする。
やっぱり、透は透だな。
そう思った。
「今日、終わったら用事あるか?」
「いや……」
「じゃ、いっちょ、景気良く行きますか?」
「……?」
これだよ、これ、と透は手首をひねる。
なるほど。
「いやでも、オレパチンコわからんし」
「まあまあ、一回やったらわかるって。な?」
まあ、ちょっとだけなら……。
卓はしぶしぶ頷いた。
轟音が鳴り響く店内。
卓は透に言われたとおりに、右下のハンドルをひねっていた。
……これの一体何が楽しいんだ?
左下から飛ぶ銀色の玉が、弧を描いて真ん中に落ちる。
釘に弾かれて、何事もなく、虚空に消える。
それをただ、眺めるだけだった。
ふと