感動したい

【フリー小説】さつき波の都 #2 再会ノ章1

さつき波の都

ザアア……。

階段に海水が満ち、波が踊り場に寄せる。

踊り場に横たわっている彼女は……。

「イブキ……!」

オサムは階段を駆け降りた。

なぜ死んだ彼女がここにいるのか?
いつからそこにいるのか?

そんな冷静なことはどうでもよかった。
ただ胸の中にたぎる熱さが彼の原動力だった。

あの日と同じ紺色のセーター、艶のある髪、閉じられたまぶた。

息を切らして、彼女のそばにかがむとその身を起こして抱えた。
あの日、血を流した彼女にしたように。

しかし、感触はあの日とは少し違った。

強烈な鉄の匂いはなく、頬に赤みを帯びている。
薄い唇から呼吸の声がする。

オサムの頬から水滴がボロボロと落ちる。

「生き……てる。よかった……。よが……ったあ……!」

しばらく嗚咽が止まらなかった。

イブキが生きている。
ただそれだけですべてが報われた。
生きる意味が生まれた。

彼女はずっと、僕の心の支えだった。
隣にいてくれるだけで、希望があふれてきて、なんでもできるような気がした。

ここは、夢の中なのかもしれない。
現実のイブキはもう死んでいるのかもしれない。
でも、そんなのは関係なかった。
彼女に会えるのならば、地獄でもよろこんでこの身を差し出そう。

ふと、彼女のまぶたが動いたかと思うと、うっすらとその目が開いた。

「イブキ!」

彼女の視線がこちらを向いた。

「安達……くん?」

懐かしい声だった。
最後に交わした会話のような刺々しさはなく、澄んでいて、ハキハキとしていた。

「ケガとかない? 大丈夫?」
「う……うん。何かあったの?」

イブキは身を起こし、あたりを見回した。

「ここ、どこ? 見たことあるような気がするけど……」
「高校の近くの商店街、らしい。なぜか長い年月が経っているようだけど」

オサムの困り眉がさらに垂れ下がる。しかし、それに対してイブキはにんまりと、その白い歯を見せた。

「これって、もしかして休校かな?」
「え……?」
「今日模試だったよね? 勉強してなかったんだー」

ラッキー、と片手でガッツポーズを取った。

何を呑気な。
周りの建物がボロボロで、今にも崩れようとしているのに。

しかし、それよりも。
オサムはうつむいた。

「模試も何も、もう受験は終わっただろ」

そう、元いた世界は三年の三月。
受験はもう終わったのだ。
それと同時に、イブキも……。

彼女はキョトンとした顔で言った。

「どういうこと?」

どういうこと、とはこちらのセリフだ。

オサムは顔をしかめた。
あの日のことは思い出したくもない。

血まみれになったイブキが目の前と重なる。

「もともと三年の三月だったろ。今は違うけど」

「え?」

イブキも顔をしかめた。
ますます分からないといった表情だ。

「三年じゃなくて、二年、でしょ」

「……!」

オサムははっとした。

さっきから何か様子がおかしいと思ったら、そういうことか。

海から来た生暖かい風が、二人の間を通り抜けていった。

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