感動したい

【フリー小説】Hello World

Hello World

薄暗い部屋に、小さな照明。
照明が照らすのは、頭を抱えた一人の男であった。

どうして、この期に及んでバグが出てしまうのか?
あと少しで、プログラムが完成するところだったのに。

焦りと恐怖で、手汗がにじむ。
男と対峙するディスプレイには、「Hello World」の一言が刻まれていた。

こ、こんなバグは初めてだ。「Hello World」しか表示されなくなるバグなんて。
きっと、ハッカーが僕のパソコンにウイルスを仕掛けてきたに違いない。
このウイルスは時限爆弾で、時間が来たら、いや、無理やり消そうとしたら、
パソコン中のありとあらゆるデータを、壊していくのだろう。
そうなると、下手に動かせないな・・・。
待て待て、これは一種の妄想だ。そうとは限らないだろう。すぐ妄想に走るのが、僕の悪い癖だ。

それにしても、「Hello World」といえば、
同僚と一緒にプログラミング研修を受けていた新人の頃を思い出す。
初めて「Hello World」を画面に表示させたときの、感動を今でも覚えている。
それに比べて今は、上司や客の顔色を伺うことばかり。まったく。うんざりする。
待てよ。もしかしたら、このバグは「初心にかえれ」という未来からのメッセージなのでは?
仕事に忙殺されて、生きる意味を失った未来の自分からのメッセージ。
今でも忙しいというのに、これ以上忙しくなるというのか。
いわば、危険信号なわけだ。早く辞めてしまえと。
だとすると、これを消そうとしていたのはなんと愚かだったことか。
むしろ、未来の自分に感謝すべきだろう。早く、早く準備をしなければ・・・。

・・・微かな朝焼けが照らすのは、泥のように眠る男とボロボロの辞表。
そして、ディスプレイには「Hello World」の文字。
プログラム名が「新人研修」なのは、言うまでもない。

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ぱっちー
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