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【フリー小説】白雪姫と七人のオタク #2 カズキ – 茜色の記憶編1

白雪姫と七人のオタク

「あいつ。あれからよくもぬけぬけと顔を出せたものね」

間塩マホは後ろをちらりと振り向きました。あいつとは他の誰でもない、白井雪のことです。

「昨日はあいつに逃げられるわ。それで先生に怒られて、トイレ掃除させられるわで散々だったわ」

マホは鋭い目でユキをにらめつけました。

「……今日は、逃がさないわよ」

一方ユキは授業を受けながら、昨日のことを思い出していました。

一通りの自己紹介を終え、短髪メガネのトオルは言いました。

「ここのことか? うーん。正直、言いづらいのだが……。ここはアニメーション研究会と言ってアニメの研究をしているが……アニメ以外も研究していて……」

「二次元全般を研究しているオタクサークル。いわゆるオタサーだお!」

太った男ダイキがフィギュアを掲げていいました。

「お、おい!」

「隠しても意味ないお。彼女はもう部員みたいなものだし。ちなみにトオルは部長だお」

「……はあ。このことは絶対に口外してはいけないぞ。魔女に居場所がバレては困るからな」

くせっ毛のショウスケが言いました。

「ちょっと待ちーな。魔女って誰のことやねん?」

「いじめっ子の間塩マホのことに決まってんじゃーん。ほら、『間塩』と『魔女』で語呂が似てるしねー」

「そういうことかい……」

「とにかく。毎回やつの目を盗んで、ここにやってくるのは大変だろうが頑張ってくれ。部室には必ず誰かがいるようにする。魔女を部室に入れんじゃないぞ……」

トオルの声が徐々に小さくなっていきました。

「……い、おい、白井! ボーとして。ちゃんと聞いているのか?」

ユキははっとして気づきました。

「す、すみません」

ふんと鼻息を鳴らし、教師は黒板に向かいました。クラスの女子たちがざわついています。ささやきごえでこちらを見ながら話しているようです。

(私の味方はいないのでしょうか……)

ユキは悲しく心でつぶやきました。

放課後のことです。マホはユキのもとにゆっくり近づいていました。

「ゆっくり、自然に、そう、落ち着いて……」

そう言い聞かせないと、思わずユキに手が出てしまいそうでした。クラス中が見ているなかで、暴力はできません。マホはクラスの中では優等生として振る舞っていました。

マホが何気なく近づいているにもかかわらず、ユキはマホに気づくと一目散に逃げ出しました。

「あ! 待ちなさい!」

マホはその後を追いかけました。

「はあ、はあ。逃げ足が速いのが厄介ね」

昨日と同じ校庭の真ん中でユキの姿を見失ってしまいました。しかし、彼女はそう簡単に諦めませんでした。

微笑むユキの美しさが脳裏に浮かびました。

「あいつをこのまま放っておくものか」

マホは怒りで腕の震えが抑えきれませんでした。

「そう。校庭は広いんだから、そう簡単に見失うはずがないわ。きっと近くにいるはず」

ふと脇道の茂みが目に入りました。人が入ったかのように不自然にくぼんでいます。マホは引き裂けんばかりに微笑み、そのどうもうな目を光らせました。

ユキは部室に辿り着きました。ドアをノックすると、奥から声が聞こえてきます。

「……合言葉は?」

「萌え萌えキュンの、にゃんにゃんにゃん」

「……よし、入れ」

ドアが開きました。見ると白パーカーを制服の中に着込んだカズキが立っています。

「やっほー。今日は大丈夫だった?」

「はい。なんとか逃げてきました」

「そっか。ちなみに合言葉制度は今日で終わりね。飽きたから」

「!?」

カズキは部室の奥へ向かいました。ユキも中に入ります。相変わらず部屋は汚いままでした。

「いちいち一人部室につけなくても大丈夫なのにさー。あの部長、真面目すぎんだよね」

ユキがテーブルの前で正座をすると、カズキがやってきました。両手には紙コップを持っています。

「はい。テキトーにオレンジにしたよ。嫌なら自分でどうぞ」

「ありがとうございます」

カズキはコップをテーブルに置くと、大の字に寝転びました。床の漫画などお構いなしです。

「あの……」

「あ、そうそう。オレがここにいる間は、掃除しないでね。この配置が気に入っているから」

「はい。分かりました」

しばらく沈黙が続きました。ユキは少し気まずい気持ちになりました。

「ねえ」

「はい」

「何か、言いたいことあったんじゃないの?」

「いえ、大したことではありませんから」

「気になるなー。なんだろう」

「いえ、本当に何でもありません」

「教えてよー」

「大丈夫です」

「なあ」

「はい……?」

カズキの雰囲気が急に変わって、ユキは驚きました。空気が張り詰め、何か黒々としたものを感じました。

「誰のために、ここにいると思ってんだ。本当はこんな面倒なことはごめんだから。昨日も言ったよな。君を助ける義理はないってな」

「……すみません」

「……なーんてね。オレって演技の才能あるんだよねー。引っかかったー」

カズキは無邪気に笑いました。あの黒々した空気はいつの間にか消えて無くなっていました。

気のせい、でしょうか。

「カズキさんは……」

「あー。カズキでいいよ。タメでしょ?」

「……カズキは、どうしてこの部活に入ったん、ですか?」

「はは。タメでいいっつってんのに。うーん。そうだなー。なんか面白そーだったから。それだけかな」

「そうですか。なんか、それっぽいですね」

「おい。どーいう意味だよ、それー」

二人は笑い合いました。

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