「それ、マジ?」
拓哉は、唐揚げを頬張りながら言った。
「そうなんだよ。気味が悪くてさ。」
結局、あの化け物はアキの横にいて、ずっと黙ったままだった。
たまに、アキと会話をしているようだったが、
僕には、アキが一人で喋っているようにしか見えなかった。
「もうちょい、バイト減らせよ。それか、病院行って見てもらえ。」
「ひどいな。本当なんだって。」
「オレは、非科学的なのは信じない派なんでな。」
でも確かに、あれから数週間経ったが、夢だったのではないかと思う。
いまだに、恐怖感はピリピリと残っていた。
今週末。
今週末に、アキと食事に行く約束をした。
バイトは、店長に無理を言って休ませてもらった。
できるだけ体調を万全にして、あの化け物を見たかったからだ。
「あー。午後の授業、だる。」
呑気な声が、食堂に響いた。
夜。
この間とは、別の駅に待ち合わせをお願いした。
前回と同じシチュエーションになるのが、怖かったのだ。
十分に寝てきたので、疲れでアキの親友が化け物に見える、という失礼なことはなさそうだ。
もし、アキがまた雪子さんを連れてきたなら、そのときは不遜な態度を謝ろう。
そう思いつつ、駅前で待っていると、後ろからいつもの軽快な足音が聞こえた。
「ごめん! 待った?」
「いや、待って・・・え!?」
思わず、後退りをした。
アキの隣に立っていたのは、以前と変わらず化け物であった。
真っ白な陶器でできた仮面は、数週間前と比べて、笑みが濃くなっている。
「ちょっと。せっちゃんと一緒なの、嫌?」
「・・・ごめん。」
「もう。せっちゃんも、もっと怒っていいからね。」
せっちゃんは、ずっとこちらをみて笑っている。不気味だった。
「さて、今日は〜イタリアンだあ!」
アキは、元気に拳を突き上げる。
いつもと変わらないアキに比べて、春彦は絶望感に満たされていた。
疲れが原因でないことが判明した今。
僕が異常なのか。アキが異常なのか。
それすらも、わからない。
冷や汗が、手のひらに満ちる。
帰りたい。そう思った。
そうだ。体調が悪くなったと言って、帰ってしまえばいい。
アキには悪いが、あれと一緒にいるのはもうたくさんだ。
「アキ。」
「どうしたの?」
「ちょっと、体調が・・・。」
言いかけて、止まった。
待て。ダメだ。何をしているんだ僕は。
アキが、この化け物に騙されている可能性だってあるだろ。
何かあってからでは遅い。
「いや、なんでもない。行こう。」
「変なの。」
春彦とアキは、歩き出した。雪子は、じっと二人を見つめ、静かに動き出した。