少年漫画のようなアクションコメディ『カンフーハッスル』。今回は、そのあらすじ紹介と解説をしたいと思います。腕の立たないただのチンピラが今、正義のカンフーに立ち上がる。笑って、泣いて、楽しめるオススメの作品です。
公開年 | 2004年 |
受賞歴 | 香港電影金像奨 最優秀作品賞 金馬奨最優秀監督賞 放送映画批評家協会賞 外国語映画賞 |
上映時間 | 1時間39分 |
ジャンル | 香港映画、アクションコメディ |
主演 | チャウ・シンチー |
監督 | チャウ・シンチー(監督が主演なんです) |
配信中の サービス (サブスク) |
Netflix, U-NEXT |
あらすじ
舞台は悪の横行する時代。極悪非道のギャング集団「斧頭会(ふとうかい)」が、その実権を握っていました。
主人公のシンは、その強さに憧れて、斧頭会に入るべく、チンピラとして(こそこそと)悪事を重ねる日々。
そして、さらなる悪事を働くため「豚小屋砦」なる貧相なアパートに目をつけますが、なんと、その住人たちは揃いも揃ってカンフーの達人だったのです。
豚小屋砦の住人たちと、斧頭会が雇う刺客たちの、壮絶で、爽快なアクション。
そして、シンの辛い過去が織りなす奇跡。
少年漫画みたいにかっこいい作品です。
※動画の配信情報は2021年9月時点のものです。最新の配信状況は各動画配信サービスの公式サイトでご確認ください。
感動ポイント解説(ネタバレ)
それでは、『カンフーハッスル』について、詳しく解説していきましょう。上図は本作品の流れと、観た時の感情推移を表しています。
それぞれのポイントについて、説明していきます。
ここからは、ネタバレが含まれますので、一度作品をご覧になることをお勧めします。
※説明中のセリフは字幕をもとにしています。
斧頭会 vs 豚小屋砦の住人
本作品の始まりは、ギャング集団が暴力にものを言わせ、跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するシーン。
そして、アパート「豚小屋砦」の生活へ。
豚小屋砦とは読んで字のごとく、ボロボロで今にも豚小屋になりそうなアパート。しかし、その住人たちが、みんなたくましく、強いんですよね。
チンピラのシンが、住人たちから弱そうな子どもを呼んで、自分の強さを見せつけようとするシーンがあるんですが、
その子が前に出たら実は筋肉隆々で、肩をボキボキ鳴らしていたのは、さすがに吹いてしまいました。
そして、思いがけず、斧頭会がやってきて、住人たちに戦いを仕掛けます。その極悪非道の残虐さに、さすがに恐れおののく住人たち。
もうダメかと思われたその時、一人の男が、斧頭会の群勢に立ち向かいます。序盤で荷物運びをしていたおじさんでした。
ここからが、最初の見どころ、迫力満点のアクションシーンです。
襲いかかる斧頭会に、次々と蹴りを入れるおじさん。彼は、伝説の足技カンフー、十二路譚腿(じゅうにろたんたい)の達人だったのです(荷物運びで足腰を鍛えていたということも推察できます)。
そのかたわら、洋服屋から斧頭会の下っ端が飛ばされ、出てきたのは、オネエっ気があって頼りなかった店主。腕に鉄のリングをつけ、蹴りの達人とともに拳、洪家鐵線拳(こうかてっせんけん)で応戦します。
そして、最後は、粥麺屋で長い麺棒を持っていた店長。彼は棍棒(五郎八卦棍(ごろうはっけこん))の達人で、敵の拳銃を物ともせず、破壊していきます。
貧乏で、弱々しいおじさんたちが、実はカンフーの達人だったという胸熱な展開。そして、それぞれカンフーをやめたにも関わらず、熱が冷めずに生活に活かしていたという伏線がいい味出してますね。
達人たちの圧倒的な強さに斧頭会の下っ端は全滅、ボスは逃げ出しました。
チャンス
斧頭会に捕まるも、特技の鍵開けと気迫で、なんとか見逃してもらうシン。誰かひとり殺したら斧頭会に入れるというチャンスをもらい、街へ赴きます。
そして、シンの回想へ。
幼少時代、シンは怪しいおじいさんから、「君は百年に一人の天才で、悪を懲らしめる使命を持っている。『われが地獄に行かず、誰が行く』のだ」と、怪しげな如来神掌の書物を特別価格(大金)で勧められます。
如来神掌というのは「天より舞い降りるカミワザ」、使える者は誰一人としていないと言われています。詰まるところ、「1日10分、簡単億万長者!」という情報商材みたいなものです(今どき、こんな露骨なのはないと思いますが)。
しかし、シンはそれを信じ、将来医者か弁護士になるために貯めていたお金をはたいて購入します。
それから必死に努力をして鍛錬を積み、女の子をいじめる輩に立ち向かうも、すぐにボコボコにされ、最後に如来神掌を馬鹿にされます。
それをきっかけにシンは、怪しいおじいさんを信じたり、必死に鍛錬を重ねたり、悪に立ち向かったりするような善人は報われないと知り、悪人を志すことになったのです。
つまり、シンは昔、善人として生きるチャンスを失い、そして今、悪人として生きるチャンスを得たと言えるでしょう。
ここは伏線がたくさん散りばめられた、いわゆる「溜め」のシーンです。
助けられなかった人
そこから、シンは豚小屋砦の大家を手にかけようとするも失敗。そして、豚小屋砦へ斧頭会から復讐の刺客が送り込まれます。
三人の達人たちは豚小屋砦からの去り際、最後の戦いに。琴の波動を使った武術、古琴波動拳に為す術もなく敗北してしまいます。
しかし、これで終わりかと思いきや、今まで遠くから見ていた大家夫婦が刺客の前に現れます。実はこの夫婦、平凡かと思わせておいて、あの三人と同等、いやそれ以上のとんでもない達人だったのです。
奥さんの「獅子の咆哮」(大声で吹き飛ばす技)、旦那さんの「太極拳」(柔よく剛を制す技)が炸裂し、刺客は完敗。
面白かったのは、それを車から見ていた斧頭会のボスと付き人が、「急いで出せ」と運転手に命令したとき、奥さんがすでに真ん中にいて、二人の肩を組んでいたところ。
そして、その付き人の「おい、静かにしろ。近隣住民の皆さんにご迷惑がかかるだろ」というナチュラルな手のひら返しでした。
スカッといい気分になれるシーンです。
そして場所が変わって、シンがアイスの屋台に強盗を押しかける場面へ。その屋台主は若い女性で、金のありかを問い詰めても、一言も発しません。
なんとか金を探し当て、逃げ出そうとしたその時、シンはその違和感に気づきます。彼女に差し出されたキャンディー。そして、手話。彼女は幼少期にいじめられていた、そして助けられなかった少女でした。
しかし、そのことに気づいても、悪に生きると決めたシンはそのキャンディーを払い、一目散に逃げていきます。長年連れ添った相棒も追い払い、その失意で道に座り込みます。
シンの悪道を責められている気持ち、あの子を助けられなかった不甲斐なさ、そういった虚しさで胸がいっぱいになりました。
羽化
シンはボスに命じられて、殺し屋界の世界王者、火雲邪神(かうんじゃしん)を研究所から呼び出します。
そしてついに、火雲邪神と伝説夫婦の死闘へ。火雲邪神は夫婦二人がかりでかかっても、全く歯が立ちません。
しかし、葬式用の鐘を拡声器代わりにして、獅子の咆哮を響かせるという奇策で、火雲邪神をあと一歩のところまで追い詰め、最終的に三人は三つ巴の硬直状態へ。
シンはボスから、夫婦を棍棒で殴るよう命じられます。
じりじりと夫婦へ歩み寄り、シンが思い切り振りかぶって殴ったのは、夫婦でなく火雲邪神の頭でした。
激怒し、シンの顔を地面が割れるまで殴る火雲邪神。
最後の力を振り絞り、弱々しく火雲邪神の頭を木の棒で叩くシン。ついに、その顔はボロきれのようにつぶれてしまいました。
そこから、なんとか火雲邪神の目を盗み、夫婦はシンを抱えて逃げ出しました。
どうして、シンは夫婦でなく火雲邪神を殴ったのか? 火雲邪神と夫婦の戦いが始まる直前、奥さんはこう言いました。
「これも宿命だわ。『われが地獄に行かず、誰が行く』」
そう。あの怪しげなおじいさんの、正義の言葉。悪の道へ歩き出そうとしていたシンは、最後の最後に、正義の道に踏みとどまったのです。
そして、ダイイングメッセージのごとく、血で描くキャンディー。あの子を助けたかった無念さが今、心の底から溢れ出て止まない。
夫婦の必死の手当てにより、包帯でぐるぐる巻きにされるシン。その様子は、さながら羽化を待つサナギのよう。
そして、三人を探す火雲邪神が見たのは、すでに崩れ落ちた包帯の山。
シンは、火雲邪神の一撃によって、最弱から最強へ、悪から正義へ、サナギから蝶へ生まれ変わったんです。
如来神掌
生まれ変わったシンは、襲いかかる斧頭会の連中を足を踏みつけ(チンピラの喧嘩技)、薙ぎ倒していきます。
そして最後の戦い、シン vs 火雲邪神。
火雲邪神は最後の切り札、カエルのように跳び回るガマガエル拳を繰り出し、シンを圧倒。ついに、シンは頭突きによって空高く飛ばされてしまいました。
しかし、天高く飛ばされたシンは不思議にも落ち着き、精神を統一。如来像をかたどった雲に祈りを捧げます。
そして、伝説の技、如来神掌。ついに火雲邪神を倒すことができました。
子どもの頃、頑張っても報われなかった如来神掌が、時を経て、正義で報われるという伏線回収がなんとも言い難い気持ちよさでした。
そして、シンは戦いの後、キャンディー屋を開き、あの日の彼女と一緒に入るのでした。
まとめ
本作品の見どころは、派手なカンフーアクションだけではありません。
数々の伏線とドラマ。その驚きと、深さに、思わず鼻がつんとしてしまいます。笑って、泣いて、面白い。そんな作品が見たいという方必見です。
最後にもうひとつ、伏線を紹介しましょう。
- (如来神掌を買った際)シン「医者か弁護士にと学費を貯めていた」
- (三人の達人を弔う際)奥さん「私らは何年も前に、戦いで息子を亡くしてるんだ」
- (シンの戦いを見た際)奥さん「息子が生きてれば彼ぐらいね」
旦那「よく勉強すれば、将来は医者か弁護士だ」 - シンは並外れた回復能力がある
もしかしたら、シンはもともと夫婦の息子だったのかもしれませんね。
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