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【フリー小説】さつき波の都 #9 廃校探索ノ章5

さつき波の都

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図書室のオサムは『きのこ大図鑑』と書かれたぼろぼろの分厚い本を、崩れないように手に取った。

色とりどりのキノコが描かれた表紙をじっと見つめる。

結局、誰も見つけることはできなかった。
嘆くイブキを励ますことも、できなかった。

オサムの歯がきしんだ。

なんて……なんて、情けない……!
いつも彼女から励まされているというのに  

図鑑を一心にぺらぺらとめくると、それを本棚に戻す。
そして隣の本を取り出し、またぺらぺらとめくる。
戻す、めくる、戻す、それを何度も繰り返した。

そして、手軽で情報量のある本だとわかると、それを脇に置く。
積まれたサバイバル用の本は二冊、三冊と増えていった。

火の起こし方、水や食料の確保の仕方、道具の作り方  

しかしすべてを持っていくわけにはいかないので、重要そうなのはできるだけその場で覚えようとした。
そして、吟味に吟味を重ね、一番使えそうな一冊を手に持った。

テーブルでうつぶせになっているイブキのもとへ足を運ぶ。

「……これにしようと思うんだけど、どう思う?」

彼女は顔を上げた。
その顔には少し疲れが見えていた。
オサムの持っている本をじっと見て言った。

「……いいんじゃない?」

オサムはうなずき、テーブルにリュックを置いてそれを詰める。
そして手を止め少し考えると、何かを取り出した。

それはフルーツゼリーだった。
プラスチックのスプーンを添えてイブキに差し出す。

「え……」

彼女は呆然として、オサムを見る。
オサムは目をそらして言った。

「なんか……今、僕からしてあげられることはこれしかないかなって……」
「いいの……?」
「そういうやつ、あんまり食べないからさ」

そのフルーツゼリーはオサムの冷蔵庫にあったものだ。

「……ありがとう」

ふたを開け、スプーンですくって口に入れる。
彼女の顔がほころんだ。

「おいしい。おいしいよっ、安達くん家のフルーツゼリー!」

オサムは思わず吹き出した。

「自家製じゃないから」
「作り方教えてー」
「違うって」

彼は上を向いて笑いながらも、心に誓った。

今は、これくらいしかしてあげられないけど。
今は、元の世界《エデン》に戻れるなんて言えないけれど。
もっと、もっと、強くなって、たくましくなって、そして、胸を張って君にこう言うんだ。

大丈夫。みんな生きているから。

廃校探索ノ章 完

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ABOUT ME
ぱっちー
自己啓発書大好きSIer(週2、3冊は読みます)。 毎日を良くするための研究を続けて早3年。 自分の自己啓発書を出版するのが夢。 感謝と恩返しの気持ちをいつも胸に。