遺跡となった校舎を一歩ずつ進む。
この時間帯はいつも登校する生徒たちで賑やかなものだが、その面影はない。
虚しさに胸が痛むのを抑えつつ、オサムたちは生存者を求め、歩を進めた。
空っぽの職員室、校長室、事務室、保健室を見て回り、二階の階段を登る。三年生の八つの教室が、グラウンドを向かいにして一面に並んでいる。
左奥から順に見ていく。人影はなく、やけに心地よい風がその虚しさを引き立てた。
右最奥の最後の教室、一組を見る。
見慣れた光景だった。なにしろ、前の世界《エデン》で僕が最後にいた教室なのだから。
皮肉にも一番被害が少ないのはこの教室だった。
後ろから見て左手前が、いつもの席だった。しかし周りには近づきがたい、まがまがしいオーラが漂っている。
窓の外を見た。あの日と同じように、上からイブキが降ってくるような気がして、すぐに目をそらす。
「ここも、誰もいない」
「え? ちゃんと中まで見なくていいの?」
「……僕は、外を見張っておくよ」
「……ふーん」
イブキが教室に入り、後ろから机をひとつひとつ見ていく。壁際はもろく危ないため、避けるようにしていた。
一通り見て戻ってくると彼女は首を振った。手がかりなし、か。
オサムは「行こう」とつぶやくと、三階へ向かった。
三階。二年生のフロアも何もなさそうだった。六組の教室を見終え、前から出ようとする。
振り返ると教室の真ん中で、イブキがうつむいて立っていた。
確かイブキは二年六組。ということは、彼女にとってここが前の世界《エデン》の教室だ。
イブキは聞こえるか聞こえないかの声で、つぶやいた。
「みんな、本当にいなくなっちゃったのかな……」
いつになく、辛そうに思えた。
「コジコジも、ムラタも、ジュンペーも……」
震える声を絞り出す。
「いっちゃんも、カホタンも、みんな」
「……」
オサムも床を見る。最後の二人は戦友だった。
僕、イブキ、ハジメ、小野寺さん。
この四人で文化祭実行委員会を回していた時期が懐かしく感じる。
オサムの口が開く。しかしその口は、何も発すことなく閉じられた。
みんなきっと、生きてるよ。
マンガのヒーローだったらもっとうまい言葉が出るだろう。
オサムはただ黙って、うなだれた彼女を見るしかできなかった。